孝平犯科帳
風は強いが、晴れわたった冬空のこの日、半隠居の孝平は足のリハビリを兼ねて半ば日課となった散歩へと屋敷の門を出た。
今日は入間市駅の方まで歩いて行くつもりである。
特に目的があるわけでもない。
(ふむ、駅前のBookOffにでも立ち寄り、良い本があれば購入するのもよかろう)
足の様子を窺いつつ、ゆったりとした足取りで駅まで行くも、面白そうな書物も見当たらない。
(まあ、よいわい)
と屋敷へ向かい、ぶらぶらと商店街を抜けて上り坂へかかった。
流石に膝が少し痛みだしたので、どこぞに座れる場所を探して一服しようと歩いていると、何やら賑やかな声が聞こえる。
そこは愛宕神社の境内で、骨董市が催されているようだ。
売る方も、買う方も骨董品のような老人が多い。
(うむ、わし自身も骨董品に近いゆえに骨董市でもあるまい)
と、そこを通りすぎると、いきなり物静かな一角へ出た。
愛宕公園というらしい。
傾斜地にある公園には小さいながら池もあり、その中ほどには島もある。
(これはよい)
公園の中の東屋で、ようように腰をおろし「わかば」に火を点け一息つき、風に揺れる木々を眺めているうちに寝不足のせいか眠気が襲ってきた。
しかし、以前公園で寝入ってしまい、起きた時に、いつの間にやら集まった猫に食べられそうになったことを思いだした。
(おっ、これはいかぬ)
と、立ち上がった。
(さて、今日も炬燵で昼寝てもして、香ばしい夢をみて夢精でもするか)
と、先程買い求めたカルピスソーダを手に
(冬晴れに カルピス出して カルピス飲む)
と、一句ひねりながら、己れの境遇を思い、ひとり口許に寂しげな笑いを浮かべたものである。
冷たい風の舞う昼下がり、屋敷へと戻るその背中が微かに震え、泣いているようにも見えた。
by takakinger
| 2012-02-27 14:43
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